にんべんとは 本枯鰹節ができるまで
日本の伝統食品である「鰹節」。家庭で鰹節を削ることは少なくなったとはいえ、時の流れとともに形を変えながらも、食卓に欠かせない食材として生き続けています。
そんな鰹節は現在も昔ながらの製法を受け継いで作られており、鰹節作りに真摯に向き合う製造関係者の皆様なくしては成り立ちません。かつおの水揚げから鰹節の完成まで、工程の要所には職人から職人へと受け継がれてきた経験と勘による技術が息づいています。このページでは写真を交えながら鰹節の作り方を紹介します。
完成まで数か月~半年。
カツオが水揚げされてから私たちの食卓に上がるまで
1. 水揚げ
漁獲されたカツオは近海のものは水氷で氷蔵します。遠洋のものは急速に冷凍させ、マイナス20~50℃で冷凍庫に保管して持ち帰ります。
鰹節に向くカツオは本節で4.5~6.0kg、亀節で3.0kg程度のもの。それ以上大きくなると、中心まで乾燥させることが難しくなるからです。また、脂肪分が多いカツオは鰹節には不向きで、生肉中の脂肪含有率が1~3%前後のものが最適とされます。
2. 生切り
カツオは頭を落とし、内臓をとり除き、水洗いしたあと3枚におろします。さらに血合い部分を境に背側と腹側とに切り分けることで1尾より4本(背節2本・腹節2本)の節が作られます。
3. 籠立て
生切りしたカツオは、煮籠(にかご)という金属製の籠に1本ずつ丁寧に並べていきます。単純に並べられているように見えますが、ねじれていたり曲がっていたりしたまま煮熟(しゃじゅく)すると、身がくずれたり形が悪くなってしまいます。
籠立ては、並べ方にも年季のいる重要な作業です。籠立ての作業は、原料のカツオ品質を最終チェックする役割も果たしています。
4. 煮熟
籠立てを終えた煮籠は8~10枚重ねてウインチで吊り上げ、75~98℃の湯で60~90分ほど煮熟します。温度や時間の差はカツオのサイズ、鮮度に応じて職人が経験で決めます。100℃にしないのは沸点まで温度を上げると、釜底より大きな泡が立ち上がり、節が動揺して煮くずれがおきやすくなるからです。
長時間じっくりと煮熟することで、肉がよくしまって生臭みのない、上質な鰹節ができあがります。
5. 骨抜き
煮熟を終えたら釜から引き上げて冷ました後、身くずれを防ぐために水を張った「骨抜き盥(たらい)」と呼ぶ水槽に入れ、皮・ウロコ・皮下脂肪・汚れなどを取り除きます。さらに1本ずつ手作業で身を傷つけないよう骨を抜きます。産地によっては水を使わない方法で骨を抜きます。
皮をはぎ取らずに残すのは、次工程の焙乾時に身くずれを起こさないためと、仕上がった際にできる皮のシワで鰹節の品質を判断するためです。
6. 水抜き・焙乾(ばいかん)
燻しと熱をもって乾燥させる工程を焙乾と呼びます。鰹節づくりではこの作業を何回も繰り返し行います。薪にはコナラ・クヌギなどが一般的に使われます。
骨抜きを終えた段階の節は、水分が68%と鮮魚とほぼ同じ量を含んでおり、ここから堅い節に仕上げていくために乾燥させていきます。まだ水分が多いので保存性は低い状態です。 最初に行われる焙乾を「一番火」といい、「二番火」以降とは区別して「水抜き焙乾」と呼ばれます。
7. 修繕
1番火の翌日、骨抜きなどで傷がついた部分を修繕します。身が欠けたり、傷がついたまま次の工程に進むと、傷がついた部分から身割れがおきたり、傷が大きくなることがあるので、それを防ぐための作業です。
煮熟肉と生肉を、2対1の比率(産地によってはこの比率が異なり、またさらに裏ごししてから使うこともあります)で混ぜ合わせたものを使用します。
8. 間歇焙乾(かんけつばいかん)
修繕を終えたものはせいろに並べてもう一度焙乾します。一気に焙乾すると表面が乾くだけで中心の水分が取れにくいので何度も休ませながら、繰り返し行います(本節で十~十五番火)。
この作業で水分は約20%まで低下します。焙乾の終わった節の表面はくん煙成分に覆われて黒くなり、表面がザラザラとしていることから「荒節(あらぶし)」あるいは「鬼節(おにぶし)」と呼ばれます。荒節をそのまま削ったものも一般的に流通していますが、カビ付けをしていないためこの段階では「発酵食品」とは言えません。焙乾の効用は水分を抜くだけでなく、くん煙成分による酸化防止や特有の風味が加わることで鰹節の旨みを引き出すのにも一役買っています。
9. 削り
焙乾工程を経た荒節(鬼節)を半日ほど天日干しをし、2~3日放置しておくと表面が湿気を帯びて柔らかくなります。この段階で形を整え、カビがつきやすいように表面のくん煙成分を削り落とします。
表面を削り上げた節は「裸節(はだかぶし)」、または赤褐色なので「赤むき」と言います。
10. カビ付け
裸節を2~3日干した後、安全性が確認されている優良鰹節カビ(特許取得済み)を裸節に噴霧し、温度、湿度が管理されている室(むろ)で貯蔵します。夏場だと6〜10日ほどで最初のカビが付き、これを一番仕込み(一番カビ)と言います。節全体に付いたカビが成長する過程で、節の中心から水分を均等に吸収し乾燥してくれます。
また、カビ付けは節の表面の脂肪分を分解してくれるため、鰹節は動物性食品でありながら脂のない澄んだ透明な「だし」がひけるという特徴を持っています。
11. 天日干し
鰹節カビがしっかり成長したら戸外に広げたムシロなどの上に並べて日に干して乾かします。しっかり天日干しした後は、節に付いているカビをブラシを使って一本一本丁寧に払い落とし、さらに水分を抜くためにカビ付けと天日干しを交互に3~6回繰り返します。節の大きさやカビの生育状態などを考慮してカビ付けの完了を決めるのは長年培った職人の目利きによる判断です。
カビ付けが進んだ段階の節は、雨が一滴でも落ちると斑点になって痕が残るため、天気には常に気を配りながらの作業です。にんべんでは、4回以上かび付けをしたものを「本枯鰹節」としています。
12. 本節・亀節
ここまで製造工程にはおよそ150~180日間を要し、5kgのカツオが本枯鰹節になると800~900gになります(重量比で約1/6)。
本枯鰹節になると最終的な含有水分は12~15%まで低下し、節同士をたたき合わせると、カーンと堅い澄んだ音がするのが特徴です。
完成
完成した鰹節は、職人の確かな目により選別が行われ、基準を満たしたもののみがにんべん商品として出荷されます。